先日LINE DeveloperDay 2020にて『一人ひとりの「変えたい」を力に、11人で変化し続ける開発チームができるまで』と題して、私たちのチームの生々しい課題や取り組み、そして変化についてお話しました。

セッション動画

日本語スライド

今回の登壇は、それまでに取り組んだり考えたりしてきた「マネジメント」を言語化する作業でした。そしてチームを観察し気づいた変化を言語化する作業でもありました。
今の私にできる最大限の力と時間を使って、頭の中に曖昧に散見していた思いをかき集め、言葉にはめ込み、論理で繋ぎ合わせて、40分というセッション枠に合うように削り出したものが、今回の発表内容となりました。

言語化の跡 言語化の跡

しかし自分の中にはまだ十分に言語化できていない部分も多く残っています。「自分の環境だから実現できた限定的な方法論」と「再現性のある技術」とをうまくふるい分けられず言及できなかった部分もあります。
ここでは、あとがきと称してその部分を補完する(言い訳する)と共に、1冊の本を紹介しようと思います。

謙虚なリーダーシップとの接点

ここ1年ほど、私は私自身のリーダーシップを改善するよりも、チームメンバーが密かに持つリーダーシップを存分に発揮できる環境(チーム)づくりに関心がありました。日々の対話の中で、一人ひとりに違った得意分野があり深く考え抜かれた意見を持っていると感じていたので、互いが得意分野でチームをリードしあう状態をつくりたかったわけです。
この「リードしあう」という行動を、セッション内では「変えたい」と思った人がチームメンバーに思いを伝え、最初の1歩を踏み出す行動と表現しました。

しかしこれが簡単ではないことを私は知っています。ですのでチームメンバーの「変えたい」を受け入れ、共に変化を起こしていく行動が併せて必要だとお伝えしました。チームメンバー1人の「変えたい」を引き出すためには、チームメンバー全員がそれを受け入れる姿勢を示す必要があるということです。

この2つの自律的な行動をチームメンバーが自然とできるようになるために、私に何ができるかと考えながら読み漁った本の中の1冊が「謙虚なリーダーシップ - 1人のリーダーに依存しない組織をつくる」という本でした。この本では、

「よい関係」ができている場合には、相手に関してあるレベルの安心感、つまり、相手の反応について想像がつくために安心感を覚えることができる

「互いに信頼し合い、いっそうよい仕事をするために、あなたについてもっとよく知りたい」と思っていることを、言葉と行動で表す

と述べています。
先述した2つの自律的な行動をしやすくする関係性を私はセッションの中で「相互理解」と表現しましたが、本書では相互理解の先にある「安心感」に目を向けています。

また、

たいていの場合、問題の根は「ノード」(つまり、個人)ではなく、相互作用(関係)にある

不測の事態や相互作用が急激に増えると、深刻な不調の兆しが多くの組織で見られるようにある

という記述は、私がセッション内でお伝えした「相互理解があることで課題に自律的に対処できる」ということを、視点を変えて「相互作用の問題が増えると組織に課題が現れる」と説明しているのだと感じました。

そして適切な関係性を引き出すためのファシリテーションや支援スキルが、組織のあらゆるレベルで発揮される必要があると伝え、関係構築にまつわるスキルを謙虚なリーダーシップの真髄と表現しその中身を掘り下げています。

このように本書は私がうまく言葉にできなかった部分、考えきれていなかった部分に言及しています。さらに人と人との関係性を深堀りし、それを変えるプロセスとしてパーソニゼーションという考え方を提示しています。その有無によりチームがどう変化したのかをいくつかの事例と共に紹介し、そしてチームに必要なふるまいである「謙虚なリーダーシップ」とはどういうものかと話を発展させていきます。

以降では、特に印象的な内容をピックアップして紹介します。

相互理解を生み出すプロセス =「パーソニゼーション」

まずはパーソニゼーションの説明を引用します。

「パーソニゼーション」とは、仕事仲間、チームメイト、上司、部下、同僚との仕事上の関係を、双方向がつくっていくプロセスである。ただし、相手のことを、そのとき担っている役割ではなく、ひとりの人間として考えようとする姿勢が土台になる。

セッションでお伝えした「一人ひとりの違いについての相互理解」とは、互いをひとりの人間として考えようとする姿勢を持ちながら双方向の関係性を築いていくことで得られるものだと言えるでしょう。

「パーソニゼーション」は、会話の初めに、どちらかが個人的なことを尋ねる、あるいは話すときに始まる。一方が、もしくは両方が、相当な覚悟をもって会話に臨み、無視されたり拒絶されたり軽蔑されたりする危険を冒すことでもある。(中略)「パーソニゼーション」とは、本質的に、互恵的な双方向のプロセスなのである。

私がセッション内で相互理解の始め方のひとつとして「自分から始めること」を提案したのは、危険を冒すことを相手に委ねるのではなく、自分が背負うことを意味していました。
自己開示をする心理的ハードルについてはセッション内でも触れましたが、もう少しストレートに言えば、自分から一歩踏み込んだ会話をすることで「痛々しく思われたり寒いと思われたりして傷つくかもしれない危険性」を誰かに負ってもらおうとするなということです(自己開示がとても苦手な自分に今でも強く言い聞かせています)。

「自分から始める」「参加しやすい雰囲気づくりから始める」「チームの状態の見極めから始める」ことを重ねながら危険を乗り越えた先に、双方向に成り立つ関係、つまり相互理解があるのだと思います。

自己開示の心理的ハードル

私たちは、相手に対して明らかにする個人的な、秘めたと言ってもいい感情や感想や意見を、絶え間なく、徐々に増やしていくなかで、相手との関係を深めていく。そして、私たちが明らかにしたものに対し、今度は相手がどれくらい、みずからのことを明らかにするかによって、私たちが明らかにしたものを相手がどの程度、受け容れているかを測る。明らかにすることと受け容れることの、次々と変わる程度が、最終的に、両者が心地よいと思う親密さのレベルを決める。

率直さの程度の変化に応じて相手の反応がどう変わるかを測り、心地よさ ―両者がともに相手を信頼し、互いに本音で率直に話していることを心から信じられるレベルの心地よさ― を探しながら、「パーソニゼーション」の境界を互いに見出すことなのだ。

これらの記述は、自己開示が極端に苦手で仕事仲間に自分のプライベートな部分や素の表情を知られることを嫌っていた私の行動を、丸裸にするものでした。そして同時に、探り探りなコミュニケーションをしているのは私だけではない、むしろ多くの人がそうなのだと再認識させてくれるものでした。

それに気づいてからは、自己開示の心理的ハードルが自分だけにあるものではなく、程度の差こそあれ誰にでもあり得るのだと考えるようになりました。

「溝」の言語化

チーム内に信頼を育むためには、「溝」を埋めることに注意を傾ける必要がある。溝とは、能力または自信がないことによって、あるいは、社会的欲求が満たされないためにパフォーマンスが下がることによって生じる、物理的・感情的な距離のことだ。

こういった状況に陥ったことはないでしょうか、あるいは周囲で目撃したことはないでしょうか。思い当たる節がありすぎた私には、これを乗り越えたストーリーはもちろん、そこから得られる学びがとても沁みました。

長くなってきたので引用はこのあたりにしますが、このように、本書からは「人と人との関係性」という目に見えない曖昧なものの全体像と、それを前進させるための論理的なアプローチが詰まっていました。私が登壇を通じて成し遂げたかったことはまさにこういう話です。

いっそ私のセッションは聞かずにこの本を読むだけでも十分でしょうし、私のセッションを聞いてよくわからないと感じた方やもっと踏み込んだことを知りたいと思った方には、染み入る一冊となることと思います。ぜひ手にとっていただければと思います。

以上、あとがきに代えて。