ロールモデルの存在は、日々の小さな行動改善からキャリアの選択まで、多くの場面で役立ちます。

「ロールモデル」や「モデルケース」と私はよく呼びますが、マネジメントの中で意識的にこれらを活用することで、想像以上に幅広い効果を体感してきました。

今回は、その事例を紹介します。

ロールモデルの活用事例

たとえばジュニアエンジニアがキャリアのレベルアップを考えるとき、自身とロールモデルを比較することで取るべき行動を浮き彫りにできます。成果だけでなく、プロセスや学習の仕方も含めて比較すると、より実践的なヒントが得られるでしょう。

シニアエンジニアが自身の価値を追求する際にも、ロールモデルは参考になります。成功パターンをそのまま適用できるケースは少ないですが、共通項を見出したり、体験談を聞いたりすることで、新たな視点を得られることがあります。

また、キャリアのステージを問わず、Web業界は数年後の自分の姿が想像しにくいものです。しかし2〜5年先を歩む先輩の姿がいくつか見えるだけで、将来像を描きやすくなります。
ロールモデルが歩いた道を丁寧にたどるというよりは、複数のロールモデルの背中を見ながら紆余曲折しその過程で自分の道を発見していくというイメージです。

ここまでいくつか簡単な事例を挙げてみました。

ロールモデルを意識したことがない人でも、振り返ってみると「あのとき、あの人のやり方を参考にした」という経験があると思います。この経験が生まれるチャンスを計画的にマネジメントに組み込んでいくことが今回のテーマというわけです。

マネージャーにとってもロールモデルが役立つ

ロールモデルを意識することで、マネジメントする側の私自身にも恩恵があります。

1. フィードバックの空中戦を避ける

エンジニアがおこなう設計の良し悪しの議論と同様で、フィードバックをする際にも目に見える”モノ”がないと認識のズレが起きがちです。モデルケースが目に見える”モノ”の役割をしてくれることがあります。

2. チーム文化を根付かせる

人は所属する集団の”色”に染まる傾向にあります。これを利用して、マネージャーやリーダーなどチームへの影響力を持つ人が、メンバーに推奨したい行動を率先してやることでチームに習慣や文化を根付かせることができます。

たとえば「小さなことでも称賛と感謝を忘れないチーム」を目指すのであれば、影響力のあるマネージャー等が称賛と感謝を日々実践しモデルケースとなると効果的でしょう。

感謝を伝え合うワークショップ等を開催する手もありますが、その場限りで終わりがちです。定着を狙う場合は、身近なモデルケースによりじわじわ浸透させることを私は意識します。

3. 新たなマネージャー候補を生み出す

多くのエンジニアにとって、マネージャーは「何をしているか分からない」「楽しそうに見えない」存在になりがちです。プレイヤーだった頃の私にとってもそうでした。

その結果、「なりたい」と思われにくい役割になってしまうのですが、これを解消するために、メンバーにマネージャーの仕事内容を説明し、理解を深めた上でマネージャーを観察してもらうことを実践しています。

マネージャーにとって、次のマネージャー候補を育成する(見つける)ことは難易度の高い課題ですが、この下準備がきっかけとなり新たなマネージャーが生まれた経験があります。

また、マネージャーを観察することで、エンジニアがすぐに活かせるTipsを発見していた事例もあります。たとえばテックリードが『人を巻き込み大きな成果を導く方法』を学ぶケースや、後輩のメンターを担当するエンジニアが『権限委譲の仕方』を参考にするケースなどがありました。

こういった経験もまた、いずれマネジメントに興味を持つきっかけになることがあるので、布石としての効果があるでしょう。

ロールモデルとの接点をつくる方法

最後に、どのようにロールモデルとチームメンバーとの接点をつくっているかを紹介します。

私は『その人の協業者の中からロールモデルを選ぶ』方法を取ることが多いです。具体的には、

  1. 協業者の特性、スキル、働き方、価値観、これまでのキャリア等の情報を集めてマップを描く
  2. メンバー各々の状況に合わせて、マップから適切なロールモデルを選び伝える、また観察する観点を伝える

加えて、ロールモデルとメンバーの直接的な関わりの機会をつくりたい場合は、プロジェクトのふりかえりの場で同じテーブルにつく機会を設けるなどの工夫をすることもあります。

人を観察することが業務の一環であるマネージャーにとって、またチームメンバー各々の現状や次のステップについて誰よりも高解像度に把握しているマネージャーにとって、さらにはロールをまたいでコミュニケーションハブになりやすいマネージャーにとって、この方法は手間をかけずに実践できます。

もしかしたら、協業者が多く、各分野の専門家が多い今の職場だから使える手法かもしれませんが、手間をかけずに実践できる「ロールモデルの活用」は、今の私にとって有用な手法のひとつです。

以上です。
ぜひ皆さんの回りのロールモデルの事例もお聞かせください。その他感想は@aloerina_までどうぞ。