「来月からエンジニアリングマネージャーやってね」と言われたら
タイトルのように「来月からエンジニアリングマネージャーやってくれませんか」と言われた経験が私にもあります。もう3〜4年くらい前のことです。おそらく多くのエンジニアと同じように当時の私はマネジメント業に興味がなく、マネージャーになってみたものの何から手を付ければ良いかも分からず、とりあえずチームメンバーとの1on1をセッティングしてみたりしました。
まさしく”レベル1”だった私ですが、いくらか経験を積み、今では見える景色や解像度が変わるくらいにはレベルアップした実感があります。
当時に戻れるならこんなふうにマネジメント業務に取り掛かろう、というイメージが具体的に持てるようになったので、今回はそれを言語化してみようと思います。少しレベルアップした自分から、レベル1だった当時の自分へのアドバイスのつもりで書いてみます。
※ちなみに数人のエンジニアで構成されるチームのエンジニアリングマネージャーを任された場面を想定してます。
- まえおき
- 1. 帽子のかぶり直しには時間がかかることを理解する
- 2. 名前のある仕事や日々進捗が出る仕事はごくわずかだと理解する
- 3. マネージャーへの期待値を理解し、チームを観察する
- 参考書籍
- まとめ
まえおき
当時の自分に伝えたいことは山程ありますが、まずはマネージャーになりたての時期を想定し、具体的なアクションよりも、考え方や向き合い方について触れていこうと思います。
マネージャーになった以上1on1をしたりアサインをしたり指示出しをしたり……と業務内容をガラッと変えて成果を出さねばと当時は焦っていましたが、焦って行動を変えてもなかなか結果が追いつかないことのほうが圧倒的に多かったです。名実ともにマネージャーになるために、まどろっこしいかもしれませんがまずは考え方のシフトから始めてみるのはいかがでしょう。
1. 帽子のかぶり直しには時間がかかることを理解する
それまでチームメンバーだった自分が今日からマネージャーになるということは、『チームメンバー』の帽子から『マネージャー』の帽子にかぶり直しをする必要があります。そして帽子をかぶり直したことを自分と周囲の全員が真に理解するには時間がかかります。被り直しが浸透しきっていない例を体験談をもとに挙げてみます。
1つ目の例では、チームメンバーとの会議の場で、私が「〜〜したい」と意思表示をした場面を思い返してみます。私はチームメンバーと対等な目線で(つまり『チームメンバー』の帽子を被って)アイデアを提案したつもりでいたものの、チームメンバーにはマネージャーからの指示だと伝わってしまっていました。このとき私は、周囲から「マネージャーの帽子被っている」と認識されていることを理解していませんでした。私自身が帽子のかぶり直しを自覚できていなかった例です。
もう1つ例を挙げます。当時私は業務上必要な指示/依頼をする行為を、偉そうな行為と捉え抵抗感を抱いていました。今であれば誠実さや敬意の有無こそが大事だと分かりますが、当時は「何様だ!」と思われないかソワソワしていたのだと思います。この例は、頭では帽子のかぶり直しをしたことを理解した上で指示/依頼業務に臨んでいたものの、感情が追いつかずにいた例です。
また、チームメンバーのほうが感情が追いつかず「先日まで同僚だったお前になぜそんなこと言われなきゃならないんだ!」と反発してしまうケースも起こり得るでしょうし、チームの代表として他部署の人と会話をしようとしても対等に扱ってもらえないケースもあり得るでしょう。
これらの例をまとめるとこんな感じです。
帽子のかぶり直しは自分自身だけでなく周囲の人にも認識してもらう必要があります。まずは自分自身が帽子のかぶり直しを意識し行動し、それを積み重ねて少しずつ周囲にも頭で理解し心で納得してもらうことが必要です。感情の問題がある以上、時間をかけることでしか解決できないと割り切って、徐々にマネージャーになっていくつもりで日々の業務に臨むと良いと思います。
2. 名前のある仕事や日々進捗が出る仕事はごくわずかだと理解する
マネージャーになると、自分の成果をうまく自覚できず不安や焦りを覚えることがあります。私は今でもあります。その理由は、分かりやすい名前が付く仕事が少ないからと、短期間で進捗する仕事がほぼないからだと考えています。逆に言うとそれまでのエンジニアリング業務は、名前を付けやすく短期間で進捗が見える業務が多いので「今なんの仕事をしているか」がはっきりしていました。たとえば
- 昨日は5件バグフィックスした
- 今日は10コミットした
- 次のリリースに向けて〇〇機能を実装している
といった具合に、作業内容を具体的に表現しやすく、成果を実感しやすいです。
一方でマネジメント業務では
- プロダクトやチームメンバーの状況を観察する
- チームを成熟させるための中期的な計画を考える
など、なんだか作業内容が読み取りにくい時間の使い方になりがちです。もちろん長期的に見たらこの積み重ねがインパクトのある大きな成果に繋がるのですが(そこが面白さでもありますが)、昨日と今日の差分を測るのが非常に難しいです。
私が日頃している仕事で名前のある仕事と言ったら『1on1』『採用面接』『ミーティングファシリテーション』くらいです。それ以外の時間は情報収集しているか、チームメンバーを観察しているか、次のアクションを考えているかといった無名のタスクをしています。
進捗の見えにくい仕事ばかりしていると「何もしていないのではないか」「自分は役に立っていないのではないか」と不安になります。分かりやすい成果が欲しくて、チームビルディングのイベントを企画したり、コードを書きたくなることもあります(もちろんそれらが悪いことではなく、本来マネージャーとして優先すべきことをせずに目先の達成感のために仕事を選ぶのが良くないということです)。
そんなとき私は一呼吸おいて、マネジメント業務とは名前のある仕事や日々進捗が出る仕事が少ないものだと思い出すようにしています。マネージャーがチームと向き合って第一にすべきことは、そしてし続けるべきことは、チームメンバー1人1人を観察し、こまめにフィードバックし、成果を高め続けていくことです。1日観察したからといって成果は出ないですが、1日観察をサボればフィードバックの機会を1つ逃すことになるかもしれません。長期的な成果や目標を目指して辛抱強くマネジメントしていくことが大切です。
3. マネージャーへの期待値を理解し、チームを観察する
マネジメント業務とは、極端に言えば「上手く成果を出すために何でもする」ことです。言い換えると、状況に応じて具体的なタスクが変わるということです。ですので、自分をマネージャーに任命した上長が自分に何を期待しているのかを理解することが、行動のヒントになります。
例えば、毎日締め切りに追われて疲弊しきったチームが健全に働けるよう立て直してほしいとか、はたまた前任のマネージャーによってある程度自己組織化されたチームを引き継ぐことで少しずつマネジメント業務に慣れてほしいとか。そういった期待を理解すると、自分がどんなマネジメントをすべきかの糸口が見えてくると思います。もし既に頭の中にその方向性がある場合でも、上長やチームメンバーが自分に望むことと照らし合わせれば、より確度を高められるはずです。
そして、周囲からの期待にせよ、マネージャーの業務内容にせよ、『チームの状態』に依って決まることが多いです。上述の例では「疲弊しきったチーム」と「自己組織化されたチーム」が登場し、それに依ってマネージャーへの期待内容が変化しています。チームの状態を適切に把握できれば何をすべきかが見え、期待内容も理解しやすいということです。
それを踏まえて、当時私が参考にしていたチームの状態を理解するための3つの指標を紹介します。
- チームに時間や心のゆとりがないサバイバルフェーズ
- 十分な時間やゆとりがあり、その時間を使って学習や検証を行っている学習フェーズ
- 自分たちの問題を自力で解決し変化し続けている自己組織化フェーズ
今の自分たちはどのフェーズにいるのかじっくり観察し見極めることで、次にすべきことが見えてくるかもしれません。チームの状態を測る指標はこれ以外にもたくさんありますが、まずはお手軽な3フェーズに分けて観察するだけでも十分ヒントが得られると思います。
参考書籍
エラスティックリーダーシップ 自己組織化チームの育て方
上で紹介した3つのフェーズはこの本で紹介されていました。それぞれのフェーズをどう見極めるか、どう対処するかが詳しく書かれています。タイトルには「リーダーシップ」とありますが、マネジメントにも通ずる内容、むしろマネジメントとして取り組むべき内容だと思います。マネジメント入門期に読んでもためになりましたし、今読み返しても気づきが得られているので、繰り返し読んで参考になる本です。
EQリーダーシップ 成功する人のこころの知能指数の活かし方
あまりメジャーな本ではないのですが、個人的に気に入っています。こちらもタイトルに「リーダーシップ」とありますが、この本ではマネージャーのスキルとしてのリーダーシップが説明されています。チームの状況に応じた6つのリーダーシップが紹介されていて、レベル1の頃に私が抱きがちだった「マネージャーなら〇〇しなきゃ」といった固定観念から解放してくれて、マネジメントの多様性を理解する手助けになりました。
まとめ
「マネージャーになったし1on1もしっかりやってメンバーのキャリアもいっぱい考えて開発プロセスもいい感じにしてコード品質も高めて……それからそれから……」と意気込んでスタートしたものの、1ヶ月経っても何も変わってないしマネージャーとして頼られることもないし、どうやってマネージャーとして踏み出せば良いんだ……。
と悩んだ記憶をたどりながら、当時の自分に向けたアドバイスを書きました。とにかく焦らず、少しずつマネージャーになっていくんだぞ、というのが一番の思いです。
……なんて大げさにメッセージを残してみたものの、まだまだマネージャーとして道半ばです。チームのフェーズによってマネジメントタスクが変わると書きましたが、比較的得意なフェーズと苦手なフェーズがあったりもします。様々なシチュエーションを経験し試行錯誤をしながら手札を増やしていくという点では、レベル1だった頃と変わりません。そういった意味でも、やはり焦らず少しずつ前進するしかないのだと思います。
感想はぜひ@aloerina_までよろしくお願いします。それでは、良いお年を。