部下や後輩に仕事を依頼する立場を経験すると、1度くらいは

  • 頼んだ仕事を進めてくれない
  • 一緒に計画を立てたりタスク分解しても進捗が出ない
  • 「やり方が分からないときは聞きに来てください」と伝えたけど相談にきてくれない

なんてことを経験するかもしれません。自分からいろいろ歩み寄っているつもりなのに相手がうまく仕事をこなしてくれない、という状況です。

今回はこういったシチュエーションとどう向き合うかの私なりの考え方を書くわけですが、大前提として人に仕事を任せる時間的余裕・精神的余裕がある状況を想定しています。

部下や後輩に任せるということは、自分がやったほうが早く上手に終えられる可能性や、任せた相手が失敗する可能性があることを承知していて、加えて実践経験から学びを得ることを期待している状況だと思います。

逆に猫の手も借りたいようなサバイバルフェーズで新しいエンジニアをチームに迎え入れて、ろくなオンボーディングもなしに「頼んだ仕事をやってくれない!」と嘆くのはさすがに自分勝手な言い分ですしね。

では参ります。

処方箋1: 「相手を意図通りに動かそうとする」のをやめる

いきなりガッカリする結論を、しかし今回の話の根幹になる結論を言いますと「相手に仕事をしてもらう」ための処方箋は存在しませんあるのは「自分がどう向き合うか」の処方箋だけです。

どんなに自分が正しいと感じていたとしても、どんなに相手が不適切な行動をしていたとしても、一方的に相手の考えや行動を変える解決策は存在せず、変えられるのは「自分が相手をどのように捉えているか」である、とはよく言われます。言い換えると「相手との関係性」を変えるということです。

相手を『怠慢』や『無能』と捉え行動を変えさせようとすることが関係性を悪化させて負の循環に迷い込む要因となることがあるので、それを防ぎ、ゆるやかに良い関係を導き、いずれ状況が良くなることを期待するような根本治療こそが、この状況でできる唯一の手段だと考えています

処方箋2: 「やる気がない」と決めつけるのをやめる

相手の行動が不適切であり、修正するよう指示をしても修正が見て取れないとき、相手に「やる気がない」と決めつけないよう注意が必要です。

相手の思考や感情を決めつけた上でのコミュニケーションは、それが間違っていたときに状況を大きく悪化させてしまいます(仮に決めつけた通りであったとしても相手にとって気持ちの良い会話にはなり得ません)。

例えば相手は体調が悪く、しかしそのことを知られたくなくて無理している状況だとします。「無理をしてがんばっているが、仕事が完遂できていない」状況です。このときに「やる気がない」と決めつけたコミュニケーションを取れば、がんばろうとしていた相手の気持ちをどれだけひどく打ち砕くことになるかは想像に難くないでしょう。

相手が真に何を考えているか、どんな意図があるかは分かりません。あるのは「私の目に相手がどう写っているか」という”主観的な観測”だけです。
相手の意図を知らなくても知っていると思い込み、さらにその意図が悪いものであると決めつけてしまうのは、よくある過ちです。相手の意図を勝手に作り出さず、理解する姿勢で向き合うのが関係性を変える一歩目です。

処方箋3: 「全ての行動は明快な理屈に基づいている」と思い込むのをやめる

これまでの処方箋にのっとり、相手のやる気や意図を決めつけず「きっと何らかの理由があるはずだ」と性善説的に事態を受け止め、その解消に勤しむことで状況が好転することもあります。

しかしそれでも解決に近づかない場合、次にやめるべきことは「相手の全ての行動には理由があり自分が気付けていない論理的な背景がある」と思い込むことです。具体的に言うと

  • やり方が分かれば、仕事を進めてくれるはずだ
  • 質問していいよといえば、質問にくるはずだ
  • 時間を確保して問いかければ、困っていることを打ち明けてくれるはずだ

といった思い込みから脱却しようということです。

では理屈ではない何が行動の背景にあるのでしょうか。私は『気持ち』に着目します。

例えば相談しない理由は「あなたを信用していないから」もしくは「信用したくないから」という気持ちが根底にあるかもしれません。仕事を進めない理由は「納得いかないから」かもしれません。「なんか気に食わないから」なんてこともあり得ます。

人間ですから、そういうことはあります。「仕事なんだから嫌でもやれ」と思うかもしれませんが、「仕事ならば嫌でもやるはずだ」という思い込みもこの状況では役に立ちません。

では気持ちに着目して、どういう手を打てるのかと言うと、ほとんどやれることはありません。
粘り強く向き合って信頼関係を築くしかないですが、すでに拒否反応が出ている場合はなかなか態度を変えてくれないこともあるでしょう。人間ですから。

ですので、こうなる前に、仕事を初めて依頼するときにから、顔を合わせて最初の一言目の会話をするときから、「私はあなたを信用したいと思っている。これから良い関係を築きたいと思っている。そのための努力をする気がある」ということをコミュニケーションの中で示していくしかないでしょう。

つまり『気持ち』に着目するのは問題が起きてからではなく、相手と関係を築く一番最初からというわけです。当たり前といえば当たり前なんですが、往々にして仕事の場では感情を無視してまるで双方がロボットであるかのように指示と応答をするだけのコミュニケーションが発生したりします。

処方箋4: 「自分のちからで解決できるはず」と思い込むのをやめる

いよいよ元も子もなくなってきましたが、ここまで書いたことをすべて意識して取り組んできても、やっぱり何度言っても期日までにタスクを終えてくれない……なんてことは起きます。繰り返し起きます。

原因を探求すればキリがないですし、医学的な要因に依ることもあります。そしてそれを知ったところで自分にはどうにもできません。

なので「仕事をやってくれない」という事象を自分の力で解決することを諦め、どのような仕事だったらやれるのかを一緒に探すよう切り替えが必要なときもあります。

少なくとも、自分たちで採用しチームに受け入れたメンバーであればその人が成し遂げてきた実績を知っているはずですし、採用の過程で見つけた魅力や長所もあるはずです。それを活かす方法を探すよう舵を切ることも時には必要です。

ここまでの内容を整理すると、処方箋1〜3は症状を予防するための生活習慣改善で、症状に対する本当の処方が処方箋4の内容になるとも言えますね。

まとめ

長くなったのでまとめると

  • 「相手を変えようとする」のではなく、私自身の「相手の捉え方」を変える
  • 相手の意図を決めつけない
  • 仕事の会話であっても双方の『気持ち』を軽視しない
  • 問題の原因を取り払うのではなく、問題を回避する方法にも目を向ける

といったアプローチを紹介しました。

先述のとおり、日常生活で発生するコミュニケーションにおいてはどれも当たり前のことなのですが、仕事の場となるとつい人間的な背景・関係性・感情など見落としてしまうことがあり、自分も時間をかけて矯正した部分です。

おそらく今現在問題に直面していて、その解決法を得たくてこの記事を読んでくれた方にとっては、即効性がなくガッカリする内容だったかもしれません。その点では申し訳なさもありますが、時間をかけることでしか解消し得ない問題なのだと改めて知る機会にしていただければ幸いです。

思ったより融通が効かず、理屈では動かず、筋が通っていないのが私たち人間です。こんな記事を書きながらもまだまだ上手くできないことの多い私ですが、これからも人間らしさに向き合いながら知見を書き残していこうと思います。